HOSHIBA YUMIKO

2020年6月10日4 分

思いつき日記●特別文章講座! 小学生に教えるプロの秘伝

2020.6.11

去る6月9日、一般社団法人アルバ・エデュさんの「オンラインおうち学校」の課外授業として、5歳から13歳の子どもたちに、

・本がどのようにできるのか? 

・Kindleを使えば君たちにだって本が出せるよ、

・そのためには、知っておかなくてはいけないことがあるよ、

・もちろん、ちゃんとした文章も書けないとダメ。

 そのためのプロの秘伝、たくさんある中の、今日は2つだけをお教えしよう!

というお話をZOOMでしました。さすがに、7歳以下には難しかったと思いますが。。

ここで、プロの秘伝って気になりません?

そこで、特別に、ご披露しちゃいます。大人にも十分役立つ、プロの文章の秘伝!

秘伝その①

正しい内容を正しい日本語で書く。

当たり前! っておっしゃいますが、もし、みんながそうできていたら、編集者も、校正者も、校閲者もいらない! 

当日は、つぎのような問題も出しました!


間違い探しその②

ネコはたいてい寝ていますが、イヌはよく走り回っています。

それは、イヌよりネコのほうが、睡眠時間がずっと長いからです。


間違い、わかるかな? 小学生にはわかりましたよ!

秘伝その②

耳で書く。目で書く。

なんのこっちゃって?

要するに、

リズムが大事。そのためには、繰り返し、対比、韻を踏むなどの技術を。

そして、描写。絵やドラマが見えてくるように。

つまり、文章は、音楽であり、映画なんです!

たとえば、と、こんな文章を挙げました。


このへんは、夏がはやくやってきます。まだ、五月だというのに、お日さまのひかりが、とてもあついのです。

 でも、タマコロガシはへいきです。このむしは、お日さまが、じりじり、てりつけると、ますます、元気になります。

(ぼくたちは、あついお日さまのひかりが、だいすきなのさ。)

 とでもいっているようです。

 さて、ふんのたまは、じょうずにできあがりました。どこからみても、まんまるです。ボールとおなじくらい、まんまるです。

 小さなむしに、こんなに、まるいたまができるなんて、ほんとうにふしぎですね。

ファーブルこんちゅう記①タマコロガシものがたり

     小林清之介 小峰書店 より


階段を上りきると、改札までは平らな通路だ。松葉杖を大きく前に振った。はずむ息を詰めて、前へ、前へ、と急いだ。

体が温かいうちに会いたい。あの子はぐずだから、心臓は止まっても、最後の最後の最後の最後まで、耳のスイッチを切り忘れているかもしれない。

人生でいちばん大切な一日の、いちばん大切な瞬間は──そこ、だ。

重松清 『きみの友だち』より


該当箇所はおわかりですね。

で、最後に、人気の本を書いたり編集したりできるようになるために、いまからできることとしてお伝えしたのが、

いい本を

口で読む

手で読む

たくさん読む

口で読むとは、朗読。声に出して読む。

手で読むとは、写経のように、原稿用紙に写す。キーボードに打つんじゃなくて、鉛筆で。

以上、まとめると、

耳で書く(音楽が聞こえるように。リズムを打つように)

目で書く(映像が見えるように。説明ではなく、描写)

そのための訓練として、

口で読む。

手で読む。

こう来ると、当然、質問が来ました。

口で読む、手で読むためのおすすめの本は? と。

そうですよね。基本、教科書にあるものでいいと思いますが、せっかくですので、息子の部屋の書棚の奥から、私が好きだったものを引っ張り出してきました。

まず、幼児向け。

お子さんがお好きなものでいいと思いますし、文章としては優れたものが本当にたくさんありますが、

わたしが、何百冊と息子に読み聞かせてきた中で、いちばん読みやすく、今でもそらんじてしまっているのが、

松岡享子さんの訳による『くまのコールテンくん』(偕成社)

松岡さんの訳は、ヘンリーくんシリーズもそうですが、いつまでたっても古びない優しい文章だと思います。

低学年には、例にも挙げた

小峰書店、小林清之介さんによる『ファーブルこんちゅう記』

中高学年には、いろいろありますが、たとえば、古典と新しいものから一つずつ。

『一房の葡萄』 有島武郎 

これは、いろいろな出版社から出ていますし、教科書にも出ていますね。

比較的新しい作品でわたしが好きで、文章が優れていると思うのは、辻内智貴さんです。

なかでも、『信さん』 小学館

これは、子ども向きの内容ですし、短編ですので、全部写すこともできると思います。

淡々とした描写ながら、何回読んでも、最後、私は泣いてしまいます。それから、やさしい気持ちに包まれます。

最後に、ついでに、大人向けの、「手で読む」本をご紹介します。ご存じの方は、またかといわれてしまうこれ、丸山健二さんです。

「は」にするか、「が」にするか、1週間悩んで書いてるんじゃないかとおもわせるような細部にいたる緊張感があります。と思っていたら、なにかのエッセイで、ほんとうに、一字一句、そのくらい考えに考え抜いて書いていると、仰っていました。

『月に泣く』がお勧めですが、アマゾンを見たら、すごく高い全集しか出ていなかったので、『踊る銀河の夜』(文藝春秋)のほうでも。

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